およそ料理というものは、世界各地それぞれの文化が集約されたものだと思います。
季節折々の作物を収穫し、その恵みよって食卓を潤し生計を支え、暮らす。
これは、地球上どの地域でも共通して営まれてきた歴史でしょう。
フランスの国土は広い。パリをはじめとする都会から北部アルプス、南の地中海沿岸まで、気候も風土も違う土地には様々な食材があり、どれほどの種類の菓子があるだろうか。フランス時代に感じたのは、その途方もない食文化の大きさ、深さでした。
フランス料理が世界に冠たるのは、豊かな土地と歴史に加えて、彼らの食材に対する深い洞察と想像力、高い技術力の裏付けがあること。それと、わたしが最も指針としたのが、モンブランひとつにも徹底してこだわる、彼らの飽くなき探究心でした。
一目で見抜かれる緊張の中で、手間を惜しまず実直に菓子作りの日々を過ごすうち、現地の経済誌に「日本人のアルチザン」と紹介されたことがあり、「職人」という生き方を強く意識するようになりました。
帰国後、開業の際に迷わず店名にアルチザンを盛り込んだのは、そうした心構えでもあり、職人として恥ずかしくないお菓子を提供し続けていくという、覚悟です。
鎌倉時代から続く武家屋敷跡の森。結城の街のこの場所に店を開いたのは、この森がきっかけです。カフェを併設したのも、食べるだけではなく、フランス菓子を空間ごと体験して頂きたいと思ったことが大きな理由でした。
フランス菓子は、深く広大です。わたし自身も、そのすべてに少しでも近づきたいと思って菓子作りに励んでいます。皆さまも、アルチザンにお越しの際に、全身でフランス菓子を感じて頂けたら、一人のアルチザンとして、この上ない喜びです。